入院中や死の間際に作成する遺言
入院中に遺言をされるケースは少なくありません。遺言を作成されている方が増えているといっても、年間の死亡者数が14万人程度であるのに対して、一年に作成される公正証書遺言の数が約11万件(平成29年)、検認される自筆証書遺言の件数は、約1万7000件(平成28年)ですから、早い段階から遺言を準備される方となるとまだまだ少ないのが現状です。そのため、どうしても入院中に作る必要が出てくるのです。
当事務所でも、遺言を作成された翌日に亡くなられた方がおられました。亡くなる1週間ほど前にご連絡を頂いて、なんとか公証人にお願いして作成に漕ぎ着けたのですが、ご本人は本当に最後の気力を振り絞っておられました。翌日ご親族からお亡くなりになったことを伺ったとき、ご逝去を悼む気持ちと共に、資格者として「間に合って良かった」という思いが去来したものです。死期が迫ったときに行う遺言は、ご本人も気力との勝負になりますが、我々も覚悟して臨む必要が出てきます。次に述べるような点に注意することが大切です。
緊急性への対応
依頼を受けた以上、必ず完成まで漕ぎ着けなければなりません。時間との勝負になりますので、夜間や早朝の対応も必要になります。
公正証書の作成(公証人に病院へ出張して頂いて作成します)ができるよう手配しますが、今日明日にもお亡くなりになるかも知れないという状況でなれば、一般危急時遺言を作成致します。
遺言をする能力の確認
民法は、成年被後見人も事理を弁識する能力を一時回復した時には遺言ができると規定しています(第973条)。そのため、早期の認知症の方や被保佐人、被補助人であれば遺言はできます。しかし、意思能力があったのかなかったのかについて後日紛争にならないよう、また仮に紛争になっても覆ることがないよう、なるべく客観的な資料を残しておくことが重要になります。
正確な遺言とするための配慮
体力や判断力が低下されている場合が多いため、遺言されたい内容を慎重に聴き取る必要があります。手元に資料がない、あるいは記憶が曖昧などの理由で財産の詳細が分からない場合が多いですが、そのような場合でも財産の特定ができるような遺言にすることが重要です。相続・遺贈させたい相手も同様です。相手の住所や生年月日などが分からない、寄附をしたいがその団体の名前を憶えていない(このような活動をされている団体に遺贈したい)、といったケースでも確実に相手が特定できるように作成しなればなりません。
ご自宅への訪問・調査
時間がない状況においても、財産の特定はとりわけ重要です。預貯金や生命保険については把握されない限り、相続手続から漏れてしまう可能性があり、そうなると生前に苦労して蓄えた財産が無駄になってしまいます。ですので、ご依頼された場合は、ご自宅へ伺って、財産関係の資料を確認させて頂くことも可能です。
生命保険金などの請求
医療保険(入院保険金)や損害保険(交通事故や怪我)、あるいはリビングニーズ特約(余命6ヶ月以内と宣告されると死亡保険金を受け取れる特約)を契約されている方も多くおられます。しかし、入院してしまうと自分の身体のケアがなにより重要で、保険金の請求をする気力・体力が失われ、関心が向かわなくなりがちです。また、保険金を請求できること自体を忘れてしまっているケースも少なくありません。しかし、医療保険で数十万円、リビングニーズ特約になると数百万円~数千万円といった金額になりますからしっかり請求するべきです。ご依頼があれば、保険金の請求と受領ができるようにサポートしています。
死亡後の手続の検討
身寄りがない方や親族と疎遠な方の場合、また、遺言内容を確実に実現できるようにしておきたい場合は、遺言の中で遺言執行者を決めておくことをお勧めします。また、葬儀納骨等に関する事項、菩提寺がない方の納骨場所、死亡の連絡をする方々(葬儀に参列頂く方々)などについても聴き取りをして、遺言に盛り込むなど書面化しておくことが重要です。身寄りがない方、お墓を持っておられない方でもしっかり弔って頂ける熱心なお寺さんもございます。
遺言は十人十色であり、様々なニーズに溢れています。その実現を確実なものとして、遺言をされる方が思い残されることのないようにすることが私達の仕事です。入院中などの困難な状況にあって、見ず知らずの資格者に連絡することは大変勇気が必要なことだと思いますが、遺言をするということはその人にとってとても大きな仕事です。お気軽にご連絡下さい。